
「何度ダイエットしても戻ってしまう…」それは意志の弱さではないかもしれません
「食事を減らしたのに、思うように体重が減らない。」
「せっかく痩せても、気が付くと元に戻ってしまう。」
こうした経験をしたことがある方は少なくないでしょう。
以前は、「肥満は食べ過ぎや運動不足が原因」「体重が減らないのは自己管理が足りないから」と考えられることもありました。
しかし、この20年ほどで肥満研究は大きく進歩し、その考え方は大きく変わっています。
現在では、日本肥満学会や欧州肥満学会(EASO)、世界肥満連盟(World Obesity Federation)など多くの専門学会が、肥満は慢性的で再発しやすい疾患という位置づけを示しています。
つまり、肥満は単に「体重が多い状態」ではなく、体の中で食欲や代謝を調節する仕組みそのものが変化した結果として起こる病態であり、適切な医学的介入が必要になることもあるのです。
その考え方の変化こそが、現在の肥満治療薬の進歩につながっています。
肥満は「脂肪が増えた状態」ではなく、全身に影響する病気です
「脂肪」と聞くと、単に余ったエネルギーを蓄えているだけの組織と思われるかもしれません。
しかし近年では、脂肪組織はホルモンやさまざまな生理活性物質を分泌する内分泌臓器であることが分かっています。
脂肪細胞からは、
レプチン
アディポネクチン
TNF-α
IL-6
など、多くの物質が分泌されています。
これらは総称してアディポカイン(Adipokines)と呼ばれ、食欲や糖代謝、炎症反応、血管機能などに影響を与えています。
肥満が進行すると脂肪組織には免疫細胞が集まり、弱い炎症が慢性的に続く状態になります。
近年はこれをMetaflammation(メタ炎症)あるいは慢性炎症と呼び、糖尿病や高血圧、脂質異常症、動脈硬化、脂肪肝(MASHを含む)など、多くの生活習慣病との関連が研究されています。
つまり肥満は、「体重が増えること」だけが問題なのではありません。
脂肪組織そのものが全身へ影響を及ぼし、さまざまな病気の土台となる可能性があるため、現在では医学的な治療対象として考えられているのです。

「BMIだけ」では健康状態は判断できません
肥満というとBMI(Body Mass Index)がよく用いられます。
BMIは体重(kg)を身長(m)の二乗で割って計算する指標で、日本ではBMI25以上が肥満とされています。
しかし実際には、BMIだけで健康状態を判断できるわけではありません。
例えば同じBMIでも、
・内臓脂肪が多い方
・皮下脂肪が中心の方
・筋肉量が多い方
では、健康への影響は異なります。
さらに日本肥満学会では、「肥満」と「肥満症」を区別しています。
肥満症とは、肥満に加えて糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群、変形性膝関節症など、肥満が原因または関連すると考えられる健康障害を伴う状態を指します。
つまり、医学的な肥満治療は「体重を減らすこと」そのものが目的ではなく、将来の健康障害を予防・改善することを目的として行われます。
この点は、「美容目的のダイエット」と「肥満症治療」との大きな違いです。
人間の体は、「痩せないように」できています
ダイエットをしていて、
「最初は順調だったのに、その後まったく減らなくなった」
という経験はありませんか。
これは決して珍しいことではありません。
私たちの体には、生命を守るために体重を一定に保とうとする仕組みが備わっています。
例えば体重が減少すると、
・食欲を高めるホルモンであるグレリンは増加し、
・満腹感に関わるレプチンは減少します。
その結果、
「もっと食べたい」
という信号が脳へ送られます。
さらに基礎代謝も低下し、以前と同じ生活をしていてもエネルギーを消費しにくい体へ変化します。
これは進化の過程で飢餓から生き延びるために獲得した、生体の防御反応と考えられています。
つまり、ダイエット後にリバウンドしやすいのは、「努力が足りないから」ではなく、体が元の体重へ戻ろうとする生理学的な反応でもあるのです。
このことは近年の肥満研究で繰り返し示されており、肥満症治療では「食欲を調節するホルモン」に着目した新しい治療法が開発される大きな理由となりました。

そこで注目されたのが「GLP-1」というホルモンです
ここ数年、「GLP-1」という言葉を耳にする機会が増えました。
GLP-1は、小腸のL細胞から分泌されるインクレチンという消化管ホルモンの一つです。
食事をすると分泌され、
・脳へ「満腹」のサインを送る
・胃の内容物がゆっくり送り出されるよう調節する
・血糖値に応じてインスリン分泌を促す
・過剰なグルカゴン分泌を抑える
といった働きをしています。
もともとは糖尿病治療の研究から注目されたホルモンでしたが、その後、「自然と食事量が減る」「体重が減少する」という作用にも関心が集まりました。
こうした生理作用を応用した治療薬は、肥満症に対する臨床試験でも良好な結果が報告され、肥満治療の考え方を大きく変えるきっかけとなりました。
一方で、これらは医療用医薬品であり、薬剤ごとに国内で承認された適応や対象患者が定められています。肥満症治療では、生活習慣の改善を基本としながら、必要に応じて薬物療法を組み合わせることが重要であり、自己判断で使用するものではありません。
GLP-1だけでは終わらなかった――研究者が次に注目したもの
GLP-1受容体作動薬は、肥満治療に大きな変化をもたらしました。
「満腹感を高める」という自然な生理作用を利用することで、従来の減量治療とは異なるアプローチが可能になったからです。
しかし、研究が進むにつれて新たな疑問も生まれました。
「食欲を抑えるだけで、本当に十分なのだろうか。」
私たちの体重は、単純に「食べる量」だけで決まるものではありません。
体には、
食欲を調節する仕組み
エネルギーを消費する仕組み
血糖を安定させる仕組み
脂肪を蓄える・利用する仕組み
が複雑に組み合わさり、一つのネットワークとして働いています。
そのため近年の肥満研究では、「一つのホルモンだけを調節する時代」から、「複数のホルモンを協調して働かせる時代」へと発想が変わり始めています。
GIPは「脇役」から「重要なプレーヤー」へ
その中心にあるのが、GIP(Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide)です。
GIPもGLP-1と同じく、小腸から分泌されるインクレチンホルモンの一つで、食事をすると分泌されます。
主な役割は、血糖値に応じてインスリン分泌を促すことですが、実はそれだけではありません。
脂肪組織や骨、脳などにも受容体が存在し、全身のエネルギー代謝に関わっていることが分かってきました。
興味深いことに、GIPは長い間「肥満にはあまり望ましくないホルモンではないか」と考えられていました。
脂肪細胞への作用が注目され、「脂肪をため込みやすくする」という印象が強かったためです。
ところが近年の基礎研究や臨床試験では、GLP-1と組み合わせることで、単独では得られない代謝改善効果が得られる可能性が示され、評価は大きく変わりました。
医学の歴史では、一度否定的に考えられていたものが、新しい研究によって再評価されることがあります。
GIPは、その代表的な例の一つと言えるでしょう。
3つ目の鍵となるのが「グルカゴン」です
そして現在、さらに注目されているのがグルカゴン受容体です。
グルカゴンは、「血糖値を上げるホルモン」としてご存じの方も多いかもしれません。
実際、肝臓に働きかけて血糖を維持する重要な役割があります。
一方で近年の研究では、それだけではないことが分かってきました。
グルカゴンは、
エネルギー消費を高める
脂肪酸の利用を促す
肝臓の脂質代謝に関与する
など、体全体の代謝にも深く関わっていると考えられています。
もちろん、グルカゴンだけを強く刺激すれば血糖値への影響が問題になる可能性があります。
そこで研究者は、
GLP-1が血糖を安定させる作用
と
グルカゴンがエネルギー消費を促す作用
を組み合わせれば、お互いの長所を生かせるのではないかと考えました。
この「バランスを取りながら複数の経路へ働きかける」という発想が、現在の次世代肥満治療薬の基盤になっています。

「食べる量を減らす」だけでなく、「代謝を整える」という考え方へ
ここ数年で肥満治療の考え方は大きく変わりました。
以前は、「できるだけ食べないようにする」ことが中心でした。
しかし現在は、
食欲を適切に調節する
満腹感を感じやすくする
エネルギー消費を維持する
血糖や脂質代謝を改善する
というように、体全体の代謝を整えることが重視されています。
これは、肥満が単なる体重の問題ではなく、ホルモンや代謝ネットワーク全体が関わる慢性疾患であるという理解が深まった結果と言えるでしょう。
肥満治療薬は、この10年で大きく進化しました
こうした研究の積み重ねにより、肥満治療薬は段階的に進歩してきました。

もちろん、「世代が新しいほど必ず優れている」という意味ではありません。
どの薬剤にも期待される点と注意点があり、長期的な有効性や安全性については今後も検証が続けられます。
新しい薬が登場しても、「基本」は変わりません
ここまで読むと、「これからは薬だけで体重を管理できる時代になるのでは」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、現在行われている大規模臨床試験のほとんどで、薬物療法は食事療法や運動療法などの生活習慣改善と組み合わせて評価されています。
薬は、健康的な生活習慣に置き換わるものではなく、その効果を支える一つの手段です。
また、急激な体重減少では筋肉量の低下や栄養バランスへの配慮も重要になります。
そのため肥満症治療では、単に体重を減らすことだけではなく、「筋肉を保ちながら健康的に減量すること」が目標になります。

前編のまとめ
肥満治療は、この10年で大きく進化しました。
その背景にあるのは、「食べ過ぎだから太る」という単純な考え方から、「食欲や代謝を調節するホルモンネットワークの異常」という理解への変化です。
GLP-1から始まった研究は、GIP、さらにグルカゴンへと広がり、現在は複数のホルモンへ同時に働きかける新しい治療薬の開発が進められています。
これは単に「より体重が減る薬」を目指しているわけではありません。
肥満症という慢性疾患をより深く理解し、その背景にある代謝異常そのものへアプローチしようという、新しい医学の流れと言えるでしょう。
後編では、最新の臨床試験を詳しく読み解きます
2026年に入り、肥満治療研究はさらに大きく動いています。
トリプルGアゴニストの臨床試験では、これまでにない体重減少率が報告され、世界中で大きな話題となりました。
一方で、その数字だけを見て期待を膨らませるのではなく、「どのような患者さんを対象とした研究なのか」「安全性はどう評価されているのか」「日本では今後どのような位置づけになるのか」を冷静に読み解くことも大切です。
後編では、2026年時点の最新エビデンスをもとに、UBT251やレタトルチド、経口GLP-1受容体作動薬、MASH領域への広がりなど、肥満治療の最前線について詳しく解説します。
参考文献
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・World Obesity Federation. World Obesity Atlas 2025. https://www.worldobesity.org/
・European Association for the Study of Obesity (EASO). Obesity Management Clinical Practice Guidance. 最新版.
ちぐさ内科クリニック覚王山
内科/美容内科/美容皮膚科
内科医 美容皮膚科医 近藤千種

近藤院長の経歴はこちら
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千種区の発熱外来なら【ちぐさ内科クリニック覚王山】
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